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いつでも腐女子日和

腐女子な管理人が送る、腐女子発言多々の日々のつれづれ。

没った話

サイトに掲載、とか言っていた、没にした小話。
あまりにも小話過ぎるので、サイトへわざわざ載せるのもあれか、
と思ったので、こっちへ折り畳みで組み込みます。
気が向いたらサイトへちゃんと乗っけるかもしれません。

さて、明日は早く起きて居間のコタツを出す、という重要任務が課せられました。
早いですが、ぼちぼち寝る支度をしようと思います!

では、桃園三兄弟、くだらなさなら保証できる小話、
興味ありましたら、折りたたみよりどうぞ!





   「仁義無き、兄弟げんか」




 頬を伝う汗の、つっ……という音さえもはばかれる、息が詰まるなどと生易しい表現で済まして良いものか。大陸でも一、二を争える、と断言できるだろう武人が二人、相手の隙を見逃さぬよう、眼光鋭く睨み合っているのだ。よほどの剛のものでさえ、心胆を冷やされること確実の緊迫感が漂っていた。
 傍で見守っている二人の義兄である劉備は、先ほどからオロオロと「やめるのだ、雲長、翼徳。我らは仲の良い兄弟であろう? なあ!」と声をかけるのだが、古今無双の二人の弟たちはまったく反応を示してはくれない。目の前の、仇といわんばかりに相手を睨み、一撃必殺の己の全力をぶつけようと虎視眈々と狙いを定めている。
「雲長! 翼徳!」
 劉備が再度叫ぶのがきっかけになった。
 こーふー、と息を吸う関羽と、すーこー、と息を吐き出す張飛の呼吸とが被った、次の瞬間だ。
「吼えよ、青龍!」
「いきがんじゃねえ!」
 無双ゲージを消費して発動する、無双乱舞が放たれた。辺りに凄まじい爆音ともうもうとした砂煙が舞い上がる。けほけほ、と劉備はむせながら弟二人の安否を気遣う。ゆっくりと収まる砂埃の中から、大きな人影が変わらず立っている様子が見えてきた。一定時間生まれる無敵状態のため、二人は大技が繰り出されたにもかかわらず、無傷に終ったらしい。
 無双ゲージの無駄遣いだ。
「いい加減にしろ、二人とも!!」
 義弟たちの無事を確認して胸を撫で下ろしたものの、安堵は怒りに摩り替わり、劉備は声を荒げて二人の間に立ち塞がり、交互に睨み付ける。
「喧嘩の原因はなんだ!」
 劉備が割り込んだために、一端は得物を引きかけた二人だったが、劉備の頭を越えて睨み合う。
「兄者はすっこんでろ。これは俺と雲長兄ぃの問題だ」
「翼徳、兄者に対し、何たる暴言。約束も守れない上に礼儀を知らぬ振る舞い、捨て置けぬ」
 じゃきり、と再び得物を構え直してしまう。
「約束を守れねえのはどっちだよ! いちいちまるで俺が悪いみたいに言いやがって。雲長兄ぃがいつも正しいとは限らねえんだぞ!」
「まだ言うか。お前以外に誰が居ると思うてか」
「だから、俺じゃねえって言ってんだろうが! そもそも、そっちこそそうやっていちゃもん付けて、実はてめぇでしたっていうことを隠そうとする偽装なんじゃねえのか」
「――っ、誰がそのような卑劣な真似を。この関雲長を愚弄するか。翼徳といえども許せぬ!」
「最初から許してもらおうなんて思ってねえ! 大体、前々から気に食わなかったんだ、いつもいつも兄貴面で説教ばかりで、五月蝿いんだよな!」
「……雲長? ……翼徳?」
 お互いに言い争うのに夢中だった二人だが、低い声で呼ばれて、反射的に口を噤む。はっとして、間に立つ、自分よりも遥かに華奢で背も低い男を注視した。
 にこり、と誰もが心を惹かれる慈愛に満ちた笑みが顔を彩っているにも関わらず、二人の豪傑の背には冷たい汗が流れ落ちていった。
 なあ、雲長? と関羽ご自慢の麗しい髯を無造作に掴み(関羽は今にも泣き出しそうな顔をしたが、賢明にも黙っていた)、なあ、翼徳? と張飛の顎を飾っている勇ましい虎鬚を掴み(痛くて、張飛は涙目になった)、言った。
「原因は、何だ?」
 含めるように、ことさらゆっくりと劉備は言った。にっこりと、さらに笑みを深く浮かべて、二人に訊いた。
「翼徳が」
「雲長兄ぃが」
「拙者の」「俺の」
『桃を食べ』「てしまったのです」「やがったんだ」
 綺麗に声をハモらせて弟二人が吼えた内容に、劉備はしばらくぽかーん、としたが、次に力が抜けてその場にしゃがみ込み、続いて「くだらん」と呟いた。
「くだらなくねえ!」
「そうです、兄者」
 反論する弟たちに、兄は吼え返す。
「くだらんだろう! たかだか桃ひとつで兄弟喧嘩とは、どこの童だ、お前たちは!」
「しかしあの桃は」
「あれは!」
 兄者が採ってきた桃だから、と再び揃った声に、劉備は今度こそ呆気に取られて、特別だから、と続いた言葉に、赤面する。
「阿呆、たかだか、桃だ」
 でも、兄者が採ってきた。
「あのな、私はお前たちが喧嘩するために採ってきたわけじゃない。お前たちに報いるための物が、今の私にはあれぐらいしかなかった。だから採ってきた。それを喧嘩の原因にされては、敵わん。そんなことで大事なお前たちが傷付いたら、桃を採ってきた己を一生悔いるであろうな」
 だから、また採ってきてやる。だから、お願いだ、雲長、翼徳。もう喧嘩はしないでくれ。
 頭を下げると、二人は慌てて劉備に頭を上げさせた。
「分かり申した、もうこれきりにしますゆえ」
「兄者に言われちゃあな」
「本当か?」
 小首を傾げて問いかければ、誓う、と高らかに宣言される。それを聞いてようやく劉備は普段通りの笑みを浮かべた。
「喧嘩の原因となった桃は私が預かろう。どこにある」
「はい、そこの荷物の上に」
 そうか、と二人の間をすり抜けて歩き出した劉備の体から香った匂いに、関羽と張飛の腕が伸びて、同時に劉備の左右の腕を掴む。そして劉備の腕を引っ張り上げて、指先を口に含んだ。
「ちょ、何をするのだ、くすぐったい……馬鹿、やめ、ろ……」
 二人に指先を咥えられて、劉備はくすぐったさのあまり笑い転げる。笑い転げる劉備の身を地面に倒して、関羽と張飛は劉備の首筋や胸元に顔を寄せる。
「待て待て、何をする気だ、お前たち。言っておくがこれはいつものように大人のお姉さま向けの話じゃないのだぞ? これ以上はいかんのだ!」
 意味不明なことを喚きながら劉備は抵抗するが、二人は怖い顔をして起き上がった。二人の、悪魔も逃げ出そうという形相に、劉備は嫌な汗を滲ませる。弟たちの屈強な手が離れたのを幸いに、そろそろと逃げ出す準備を整えるが、再び捕らえられる。
『兄者?』
「な、なんだ?」
『桃を食べたのは兄者』「であったか」「だったのかよ」
 微かに漂った桃の香りと、指先に付着した甘い味、そして汁を大量に垂らしたのか、首周りや胸元に濃く残った汁跡。全てがその事実を物語っていた。
「はっはっは、私のものは私のもの、お前たちのものは私のものだ!」
 開き直った劉備は、ジャイアニズムを宣言して、胸を反らした。しかし次に起こるであろう、二人の怒声を覚悟して身を竦めたのだが、いつまで経っても鼓膜を破りかねない声音は聞こえない。恐る恐る二人を仰ぎ見れば、気味が悪いほどの満面の笑みを浮かべているではないか。
「雲長? 翼徳?」
 そっと字を呼ぶと、関羽は空いている片手で髯を撫でながら、目を細めた。張飛はにんまり、と笑みを浮かべて見せた。
『おしおきが』「必要ですな」「必要だな」
 ひえぇ~、と世にも情けない声を劉備は上げる。二人の頑強な男へ引きずられる劉備は、さながら原住民に捕獲された猿のような有様で、唯一の目撃者だった簡雍が、南無……と手を合わせて見送ったという。

 ――教訓――
 義兄弟だろうとも、食べ物の恨みは恐ろしい。



 おまけ


 二人のお仕置きの内容を、下記の番号から選びなさい。
① 夕飯三日間抜きだった。
② 一時間、くすぐり地獄。
③ ここには書けない、大人のお姉さん向けのお仕置きだった。


終っとこう!





個人的には③を希望しておきます(えー)。

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