腐女子な管理人が送る、腐女子発言多々の日々のつれづれ。
曹操×劉備
(君に贈る7つの懇願 より お題提供/TV/かすみ様)
【僕は あのひとの影を越えることができないのですか】
「私は、曹操の影を越えることができぬのであろうか」
壊走し、散り散りとなっていく兵たちの姿を横目に見ながら、劉備は一瞬だけ目を瞑り、弱音を吐いた。
そしてすぐに弱音は憤怒に跳ね上がる。
歯噛みした。
越える、だと?
いつからあれが自分の目標となってしまったのか。
悔しい。
何のために、曹操の下を去った。
いっそ、このままで良いのではないか。
そう思いさえしたあの男の体の下で、違う、と心の隅で叫んだ自分を信じたからではないのか。
これが曹操との決別の出立になろう、と袁術討伐へと発った。
玄徳――
前夜に呼ばれた低い囁きに、惑いそうになった己を叱咤したのは何のためだ。
抱き寄せる力に身を委ねることを許しはしなかった、己の中に残っていた志を奮い立たせ、曹操を裏切る決意をした。
そうだろう。
兄者――
末の弟の、劉備を案じる声が切れ切れに聞こえた。
「逃げろ!」
それだけを叫び返した。
「逃げて生きろ!!」
翼徳も、雲長も、きっと生き延びて、再び私の下へ辿り着く。
裏切った劉備への怒りにも似た素早く激烈な曹操の攻撃の前に、劉備たちは無様に逃げ延びるしかできなかった。
「曹操」
背中や首筋をひり付く感覚が駆け抜けていく。
まるで曹操に抱かれているときのように、甘さと切なさと、そして強烈なまでの危機感がそこにある。
「同じか、同じなのか」
振り向けば、手を伸ばした曹操の姿が見えるようで、恐くて振り向けなかったが、その表情だけは瞼の奥にちらついた。
劉備を抱き、愛しい、と囁くあの顔で、きっと追いかけてきている。
曹操に抱かれるも、追いかけるも、追いかけさせるも、同じなのかもしれない。
越えるのではない。
追いかけるのでもない。
違うところを見つめながら、お互いに真横を走っているのだ。
手を伸ばせば触れ合う距離にいながら、時々相手がまだ走っていることを確認し、恐らく微笑みをかわしながら、お互いに終着点が違うことを理解して、走っている。
「私は、私は必ず貴方とともに走りきって見せますよ」
いまは少し遠くへ道が逸れてしまっているが、またきっと、お互いに笑っていることが見える距離まで、必ず戻ってくる。
見開いた眼差しは暗い地平線を睨んでいた。
いまは、少しだけさようならです。
そして、
「また会いましょう、曹操殿」
皆が必死で逃げ惑う中、劉備だけは淡い笑みを唇に刷いていた。
終