どうやら、今度こそ花粉症。
今年はそれっぽいのに何度も当たって、始まっていたのか、終わっていたのかも定かではありませんでしたが、どうもこの二、三日のはそれっぽいようです。結局、目が痒かったのもそれが原因っぽいし。
惑わされるな~。
そして今日はそんな花粉症プラス暑さで普段よりもちょっとだけお疲れモードでした。と、いうか昨日買い物した本を夜遅くまで読んでいて寝不足だったせいか!? 一日しか仕事をしていないくせに、夜寝モードでした。
情けないっす。
では、そんな情けない奴のお題をどうぞ。
「何様?」
身体の芯が熱く脈打っている。
息が上がり、視界はひどく狭い。
掛けられた縄が食い込んで、それが引きずられるたびに痛んで、悔しさも込めて低く唸った。
誇りがあるのだ。
俺は小さい頃から村では一番身体が大きく、そしてそれに見合うだけの力を持っていて、誰も敵うものはいなかった。子供だった時分はそのせいで、周りの子供たちに怪我を負わせないように気を遣わなくてはならなくて、ひどく疲れた。
だからいつもぼんやりと空を見上げたり、一人で遊ぶことが多く、それを大人たちは変わった子だ、という目で見たりもしていた。
別に、そのことに対しては特に感情を動かされることはなかったが、常に抑圧されたような息苦しさはあった。
だからだろうか。
時々、そういうことを無神経にからかってくる輩がいると、持て余した力が吐き出されてしまう。
そしていつも後悔してしまう。
しかしそれも歳を重ねるごとに治まってきて、今では逆に持て余していたはずの力を頼られる世の中となった。それはあまり喜ばれることではないのだろうが、俺の心の平穏は保たれた。
村から賊を守るための砦を建て、それを守る日々は俺の力を持ってすればさほど難しいことではなかった。何より、ひと時は俺の過ぎる力を疎ましそうにしていた村人たちの態度が違った。
疎遠の眼差しが期待へと変わり、尊敬へ変わるまではさして時間は必要ではなかった。
誇りだった。
しかし、その誇りは今、地に叩き伏せられようとしていた。
かつてないほどの強敵に出会った。
そいつらはある日突然やってきたようで、俺がいつものように賊を退けようとその頭を捕らえたところ、「俺の獲物だ」と横から口を挟んできた男がいた。
初めは何を、と思い軽くあしらうつもりで戟を合わせたが、強い。
幾度も火花を散らしたが決着がつかず、双方引き際を見取ってその日は別れた。
そしてあくる日だ。
まだ挑んできたその男と交わり、肩で息をするほどに打ち合い、まだ行ける、と思っていたところへ、ひらり、とその男は身を翻したのだ。
疲れて思考は乱れ、視界も狭くなっていた頃だ。
俺は疑問にも思わずに追い駆け、そして罠に掛かった。
屈辱だ。易々と罠に掛かった己もそうだが、卑劣な罠を使って勝ちをもぎ取った男も憎かった。
「どこへ連れて行く!」
吼える俺に、男は振り返って大声で返した。
「殿の元だ!」
「殿とは何だ!」
「曹操孟徳様だ! 知らんのか!」
「知らん、何様だか知らんが、お前のような卑怯な男を部下にしているぐらいだ。たかが知れよう!」
「貴様!!」
己の主を愚弄されたことに腹を立てたのか、縄がきつく引かれ、俺はもんどりうった。そのまま転がされて引きずられた。痛みに耐えながらも、巨漢である自分をこうも容易く引きずれる男の力にも感心していた。
(このような凄い男を臣にしているのだ。曹操という男はどれほどの者だろうか)
憤っていたはずの心に、好奇心が僅かに勝る。
無惨に転がされて突き出された先は、赤い軍袍も眼に痛い、小柄な男の前だった。
「お前たち、何ということをしている!」
しかしその細身の身体から発せられた声は威厳を含み、そして手ずから俺の身体を拘束していた熊手やら縄を解いてくれた。
呆然と見上げる俺に、その男は席まで用意し、座らせてくれた。
「儂の部下たちが無礼を働いた」
男は非礼を侘び、そして名乗った。
曹操だという。
初めて会う俺に対し、なぜかその男はひどく熱い眼差しを送っている。掛けられる言葉も態度も、慈愛に満ちている。
その男の前にいると、自然と己を鼓舞して良く見せたくなる、そんな気分になった。
普段なら口にもしない自慢話などを口走り、一人で照れた。しかし曹操は熱心に耳を傾けてくれて、それがひどく誇らしかった。
誇りがあった。
しかしどうやら、その誇りはさらなる高みを求めているようで。
首を差し出す、と言ったものの、ここでこの男と別れるには余りにも惜しい、と心が叫んでいた。
「儂についてはくれないか」
喜んで、と答えたとき、身体の芯は熱かった。
了
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さあ、吉川三国志です。吉川氏ほどしかし風流に、というか雅な雰囲気はないですね(というか出せません)。最近、その文体にはまっております。
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