昨晩はうっかりさっぱり寝こけてしまいました。
色々予定があったのに、全然片付きませんでしたよ。
ま、そんなわけで、本日に回ってきた予定、今から片付けます。小説の復旧もしなくては、ですし。
大雨が降り続いている地域は心配ですが、こちらは程よい梅雨っぷりで、常にひっきーな私は家に閉じこもっている正当な理由があって、心苦しくないわけです(笑)。
庭のアジサイ(放置され気味)も、すっかり一人で大きくなっています。

同じように放置されている拙宅サイトに少しでも潤いを。そんなわけで、お題で潤い。
「プライバシー侵害です」
むくり、と張飛は身を起こした。
「……?」
幕舎の中は薄明るくなっている。どうやら朝方であるらしい。隣では、関羽が規則正しい寝息を立てて寝ている。そして張飛と関羽に挟まれて、彼らの義兄である劉備が、そこにいるはずだった。
「兄者……?」
しかし、予想に反してそこに兄の姿はなく、張飛は寝ぼけ眼をこすった。
あまり早起きが得意ではない張飛は、自分がどうしてこのような時間に目が覚めたのか不思議だったが、隣にあるべき気配がないことに違和感を覚えたからだ、と合点する。
もぞっと、関羽が寝返りを打つ横で、張飛は劉備の寝床を探る。
(まだいなくなって大して経ってねぇな)
危険なところに駐留してはいないし、夜中というわけでもない。劉備が一人出歩いていても危険はないだろう。事実、張飛の勘も危険を察知していないし、関羽もこの通り良く寝ている。
(小便か)
そう結論付けて、張飛はもう一眠りしようと、ごろんと横になろうとしたが、不意にぶるっと身震いした。恐らくは劉備のいなくなった理由を考えたせいだろう。釣られたように、張飛も用を足しに行くことにした(別に劉備がそのために起きたかどうかなど、決まっていないのだが)。
「ふわ~~っ」
外へ出て大きく欠伸と伸びを一緒にする。ばりばり、と頭を掻いてから、張飛は川へ歩いていく。今日の野営地は川の近くであった。
一応、簡単な見張りが夜通し立っている。その連中へ挨拶をしながら、朝日が昇ろうとしている紫色の空を見上げた。
「あれ」
空から川へ目を転じると、その畔にしゃがみ込んでいる見慣れた背中を見つけて、張飛は声を漏らした。
「何してんだ?」
それは紛れもなく劉備の後ろ姿であり、何やら熱心に川の中を覗き込んでいる。張飛が気配を殺すわけでもなく普段通りに近寄っても、全く気付く様子はない。
何か珍しいものでも見えるのかと思い、張飛は劉備の後ろから川の中を覗き込んだ。
「何かいるのか?」
そう声を掛けると、よほど驚いたのだろう。劉備は声もなく立ち上がり、当然、上から覗き込んでいた張飛の顎とぶつかり合うことになり。
『~~~っっ』
二人は声もなくそれぞれ、頭と顎を押さえてその場に蹲った。
「ちょ、何すんだよ、兄者」
「そ、それは私の台詞だ」
互いに涙目になりながら、文句を付ける。
「こんな朝早くにお前が起きてくるなんて、どういう風の吹き回しだ」
「たまたまだ。目が覚めたら小便したくなって出てきたんだ。兄者こそ、一人でこんなところで何やってんだ」
劉備は頭を撫でる手を止めて、別に、と呟いた。それに対して、張飛はふ~ん、と返した。
「俺も、人のこと言えた義理じゃねぇけど、兄者って嘘をつくの下手くそだな」
「な、何を根拠に」
「話したくないなら別に構わねぇけど」
ただの鎌かけだったのに、妙に慌てた劉備が可笑しくて、張飛は内心でにやっとする。
「兄弟だって、隠したいことの一つや二つあるもんな」
ちょっと寂しそうにしてみせると、案の定、劉備は少し罪悪感に駆られた顔になる。
「……げが、気になって見ていただけだ」
「何だ?」
ぼそっと呟いた劉備の言葉が聞き取れなくて、張飛は聞き返す。
「だから、鬚が気になって見ていただけだ!」
やけくそになったのか、そう叫んだ劉備を、張飛はなぁんだ、と思わず言葉にしてしまう。熱心に川を覗いていたのは、川の中の何かを見ていたのではなく、川面に映った自分の顔を見ていたようだ。
「何だとは何だ! お前だって毎日こっそり鬚の手入れをしているではないか!」
「知ってたのか」
腹を立てたらしい劉備の切り返しに、張飛は気まずそうに首を竦めた。
「仕方ねぇじゃん。近くにあれだけの髯があって、毎日毎日見せられればさ。手入れをするこっちが何だか虚しいじゃねぇか」
「そうなのだ!」
言い訳じみた張飛の言葉に、劉備が力強く同意を示した。
「何だ、兄者もそう思ってたのか」
「うむ。何せ雲長の髯は立派だからな」
少しは自分たちの鬚に劣等感も抱こう、というもの。
「無いものねだりは良くないが……」
「ま、仕方ねぇ」
互いを慰め合いながら、張飛は用を足し、劉備は手入れを終えてから幕舎へ引き返した。
途端、関羽が凄い形相で振り返ったので、二人はぽかーんと見上げた。
「兄者、翼徳、無事であったか。起きたら二人の姿がなく、今から探しに行くところであったのだぞ」
しかし、二人はそれに返事をするどころではなく、その場に蹲って笑い転げた。
「あはははっ、な、何だその髯は、雲長……あは、あはははっ」
「あ、兄者のひ、髯が……ひぃ、ひははっ」
二人の様子に関羽ははっとした様子で、自分の髯を押さえた。
「こ、これはまだ手入れ前で……笑いすぎだ、二人とも!」
関羽の髯は、いつもの流れるように垂れている髯ではなく、あちこちが跳ねている、いわゆる寝癖のような有様になっている。
もしかして、関羽の朝が早いのは、いつもその寝癖を直すためなのか、と劉備と張飛の頭を過ぎるが、それを聞いてみる余裕もなく、ただ笑い転げていた。
「拙者とて、隠しておきたいこともある!」
「分かるぞ、雲長」
「分かるぜ、兄者」
関羽の主張に頷きながらも、二人はもうしばらく笑い転げていたのだった……。
おしまい
***
だから、この後、関羽はヒゲ袋を付けるようになったとか、ならなかったとか……(笑)。
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