忍者ブログ

いつでも腐女子日和

腐女子な管理人が送る、腐女子発言多々の日々のつれづれ。

お疲れ様でした。

イベント、無事に終了です。
思ったよりも小規模で、ちょっとびっくりした私ですが、ビンゴ大会があったり、アットホームな感じで、それはそれで楽しかったです。それに一人一人に対するスペースの広さがありがたかったです。何せ私のところは売れないくせに発行物だけはけっこうあるので、場所が広いと嬉しいです。

さて、スペースお立ち寄りの方、ありがとうございました。

来週のおでかけライブも楽しみますよv

恒例のお題ですが、今回はちょっと長めです。ではどうぞ。



 「これ手伝って!」


 売れ残った履や筵を一つ一つ丁寧に仕舞いこんでから、私はゆっくりと息を吐いた。
 空は橙色に染まり抜き、沈む夕陽の赤さに目を細めた。

 いつまでこの生活を続けていけるだろう。年老いた母を抱えて、日々の生活に追われて。そのうちに器量の良い娘、とまではいかないが、自分にあった娘と結婚し子を作り、筵を織り畑を耕し、そうして年老いて行くのだろうか。
 ある意味で、今の世の中、それらをまっとう出来る方が幸せなのだろうが、私にいたってはそう思えない。じりじりと胸を焦がすような憤りが、忘れた頃に身を襲い、魂をどこかへ逸らせる。

 もう一度だけ嘆息をこぼした後で、商売道具をしまった籠を背負った。
 まだ村に帰るには早いだろう。明日もここで店を開いて、もう少しだけ稼ぎを上げよう。
 肩に食い込む縄が売れた分だけ軽いはずだが、なぜか妙にずしり、と食い込んだ。

 足元の地面を眺めながら、夜露の防げる場所を探しに歩き出す。街の主要道の半ばまで差し掛かったときだ。ざわざわと人だかりが出来ている。私は邪魔だな、と思いながら遠回りをしてその人だかりを避けようとした。
 ところが、そんな私の腕を掴むものがいた。

「玄徳」
「なんだ、憲和か」

 私の腕を掴んだのは簡雍だった。同じ楼桑村の出身であり、私が侠に身を置いているときも好んで傍にいた悪友ともいえる男だ。

「こっちへ来ていたのか」

 最近は、毎日の生活を何とかすることに精一杯で、侠客として暴れまわる日々とも縁遠くなっていた。そのせいか、憲和とも久しぶりに会った気がした。
 普段からあまり柄は良くない男だが、今日はさらに険阻な雰囲気を醸し出している。私が尋ねれば、ぐいっと顎だけで人だかりの先を指したのだ。

「何かあるのか?」
「いいから見て来い」

 相変わらずのぶっきら棒さだ。別に私を嫌っているわけではなく、誰に対しても変わらない。そこが気に入ってはいるのだが。だから私は言われるままに人垣を掻き分けて中心へ潜り込んだ。

 立て札があった。字は読めた。私は乗り気ではなかったが、お袋に言われて渋々学徒の身となったのだ。だがそれが侠に身を置くきっかけとなったのだから分からないものだ。
 しかし後々、そのことを私は非常に感謝することになる。恐らく、あのとき少しでも学をかじっていなければ、早々と野垂れ死ぬか、もしくはあの長い長い旅に出ることもなかっただろうからだ。

「義勇軍……」

 呟いた私の言葉に近くで同じように立て札を見ていた人間が反応した。

「それどころじゃねぇよ。俺たちは毎日毎日生きていくのに息を切らしてんだ。そんなことに大事な体を裂けねぇよ」

 その言葉に同意する人間たちは、そうだそうだ、と言いながら、すっかり立て札から興味を失ったのか次々と立ち去っていった。後には幾人かが残るばかりとなった。
 閑散となってようやく憲和が近付いてきた。

「どう思う、玄徳」
「……どう、とは?」
「お前、何も感じないか」
「……」
「お前もあいつらと同じか? こんなことに時間を、命を費やせない、と思うか?」

 ゆっくりと振り返った。憲和は夕陽を背に立っていて、その表情はよく読めない。だが長い付き合いだ。憲和が何を思ってこの立て札を見せてくれたのか、私には良く理解できた。

「集まるかな」
「お前には侠客だった頃の人脈があるだろう」
「だった、じゃないさ。今も侠客だ。弱い奴らを守りたい、と思う気持ちは変わっていない」

 身を焦がす熱が痛いほどだ。魂が今にも肢体を突き破ってどこかへ駆けてしまいそうだ。しかし、それが心地よい。

「久々に見たな、お前のそんな活き活きとした顔」
「そうか?」

 私はつるっと顔を撫でた。口元が綻んでいるのが分かった。肩に食い込んでいた縄が重いと感じない。
 憲和の肩越しに再び眺めた夕陽が、ひどく目に焼きついた。



          ※



「もう一人二人欲しいな」
「ああ」

 黄巾賊討伐のための義勇軍に集まってくれた人間は思ったよりは多かった。しかし気概はあっても武芸がない人間ばかりだ。もう少し武に長けた人間が欲しかった。
 しかし早く出立しなくては滞在費だけですぐに義勇軍は成り立たなくなってしまう。

「今日の夕陽が沈むまでだ。それまでに誰も来なかったら明日、出立しよう」

 憲和に告げて、私は小屋の外へ出た。夕陽はあの決意の日から変わらずに赤い。

「足りない」

 勘というのだろう。私は昔からなぜかこういうことに関して鼻が利いた。私腹を肥やす小役人の倉を襲ったときも、不味い、と思った方角には必ず兵が待ち構えていたし、今夜は決行しないほうがいい、と感じた日は、やはり待ち伏せがあったり、と。
 そんな妙な勘が働く私を、仲間たちはいつの間にか頭に祭り上げていた。
 今回も、その勘が告げるのだ。

 今のままでは死ぬ、と。

 どうする、と苛々と耳たぶを引っ張る。子供の頃からの癖だ。考え事や気持ちが昂ぶるとどうしても耳を弄りたくなる。そのせいか、どうも私の耳たぶは人より大きい。

「おい、大耳」

 だから後ろからそう声を掛けられて、思わず険しい顔で振り返ってしまった。

「義勇軍を集めてるって奴のねぐらはここか?」

 ガラガラと銅鑼鐘のような声で、その男は聞いてきた。

 どくり、と血が騒いだ。若いが逞しい男だ。私より頭一つは大きいだろう。そして横幅も一回り二回りは違う。何より、腰に下がっている剣が使い込まれていることと、足運びに目を惹かれた。
 重そうな体躯のわりに、私に気付かれずに後ろに立っていたのだ。

 来た、と直感した。ごくり、と唾を飲み込んで、どう答えようかと思案した。絶対に仲間にする。この男がいれば大丈夫だ。そう思えた。

「おい、早く答えろ。それとも頭弱いのか?」

 答えあぐねている私に痺れたのか、気が短いのか、男は声を荒げた。

「翼徳、やめないか。失礼であるぞ。恐らくその方は義勇軍を集めている張本人だ。町で聞いた外見の特徴が一致する」

 私は二度驚くことになる。銅鑼声の男に気を取られていたとはいえ、その傍に立っているさらに長身の男に、声を掛けられて初めてその存在に気付いたことと、その男が携えている長い髯にだ。

「失礼した。この男はどうも礼儀は知らん男だ。劉玄徳殿、でよろしいか。拙者たちは義勇軍を募っている、と聞きはるばるやってきたのだが、どうだろうか」

 理知的ではあるが熱い眼差しが私を真っ直ぐ射抜いた。器を量られている、と感じるが、不思議と不快ではなかった。
 勘が踊り狂っている。咄嗟に握り締めた拳が震えている。

「……てくれ」

 声が震えて言葉に出来なかった。はっ? と二人が訝しげな顔をしたので、息を大きく吸い込んで、もう一度言った。

「どうか、私に力を貸してくれ。手伝って欲しい。この世を糾すこの大仕事を」

 二人の男が顔を見合わせた。それから大きく頷いた。

「でけぇことを言う奴だ。当たり前だ、そのために来たんだからよ。俺は張飛、張翼徳だ」

「無論である。同じ志を持つ者として、助力は惜しまん。拙者は、姓は関、名は羽、字は雲長だ。よろしく頼む」

「私は、劉玄徳。劉備玄徳だ」

 大丈夫だ、と勘は喝采を上げている。それに頷きながら、後ろを振り返った。
 山の稜線に、赤い夕陽が落ちていった瞬間だった。



 終



 ***

 桃園三兄弟の出番が少ない、そんな始まり始まりのお話。

拍手[0回]

PR

コメント

コメントを書く

お名前:
タイトル:
文字色:
メールアドレス:
URL:
コメント:
パスワード:   Vodafone絵文字 i-mode絵文字 Ezweb絵文字

カレンダー

08 2024/09 10
S M T W T F S
1 2 3 4 5 6 7
8 9 10 11 12 14
15 16 17 18 19 20 21
22 23 24 25 26 27 28
29 30

リンク

最新記事

カテゴリー

ブログ内検索

アーカイブ

フリーエリア