しかし書かずにいられない、そんなネタをコミケに行く道すがら
思いついてしまったので、投下してみることに。
というわけで、イベントレポは少々お待ちを。
思いついた曹操さまお墓発見小話。
***************
がらがら……と派手に石が崩れる音がした。
おい、と俺は振り返って末の弟を叱る。
ただの石壁に見えて、もしかしたら重要な価値が含まれているかもしれないのだ、粗末に扱えない。
ようやく、苦労に苦労を重ねて手に入れた確かな筋からの情報で訪れた墓陵跡だ。不注意で価値を下げてしまっては泣くに泣けない。
薄く針のように刺し込む日の光と持ち込んだ懐中電灯の明かりで辺りを照らし、俺は棺らしい石塊に近付く。そっと、傍に置かれた柱を払うと微かに読み取れる字が浮かび上がる。
「魏王……」
読み取れたのはたったの二文字だが、充分だ。
俺はにやり、と口角を吊り上げた。俺の傍で同じように手元を見つめていた直弟も大きく頷く。末の弟と三人、思わずハイタッチだ。
「イッエ~イ!!」
そのまま小躍りを始める。貴重な文化財だとか、そんなことはしばらく頭の片隅から追いやる。
「……うっさいな、何事じゃ」
「……」
「……? なにか言ったか、お前たち」
「いえ、何も」
「言ってねえぜ」
「人がせっかく気持ち良く寝ていたというのに、何事じゃ、というのだ」
声の主は、棺と思しき石塊の上から聞こえてきた。俺は慌てて振り返り、呟いた。
「なに、このちっさいおっさん」
「ちっさいは余計じゃ、ちっさいは!」
石塊の上に腰を掛け、足を組んで頬杖を付いてた小さなおっさんは、俺の一言になぜかぷんすか腹を立て始めた。
「俺は物事をありのままに言っただけだ」
「それが余計じゃと言うのだ!」
「で、あんた誰」
「お主こそ、誰じゃ。他人のうちに勝手に入ってきおって」
「他人んちって。だってここ魏王さんの墓だよ。人の家じゃないよ」
「だから、わしの墓じゃろ」
「へえ、あんたの墓……って……えーーー!!」
大声を上げた俺にびっくりしたのか、ちっさいおっさんは石塊から落ちかけたが、俺も腰を抜かしかけた。当然だ。
なんだ、こういう場合は何を唱えたらいいんだ。俺、勉強嫌いだったから良く分からねえぞ。
こういうときは、無駄に本を読むのが好きなすぐ下の弟に……と振り返れば、二人ともとうに姿が見えないでいやがる。薄情すぎる。所詮、血の繋がりがあったところでこんなものだ。
「じゃあ、あんた曹操? 曹孟徳さん?」
「いかにも」
「幽霊?」
「ゆーれい? ああ、そういう言い方をするのか、今は。まあそうなる」
「もしかして、俺を呪いに来た?」
「呪い? なんでそんなことしなくてはならん」
「だって、あんたの墓を見つけて起こしちゃったから」
「……別にわしは怒ってないぞ。ただうるさいから文句を言いに来ただけじゃ」
「へえ! さすが魏王にまでなった人だ、心がおっきいねえ」
「お主こそ、わしが死んだ人間だと知ってもあまり怯えてないようじゃの」
「ああ、なんかね、初めて会った気がしないんだ。だからかな」
「ほお、実はわしもなのだ」
俺と曹さんはしばらく見つめあう。特に曹さんは俺の耳や人より長い手を興味深げに眺めている。そして、口を開いたのは曹さんからだった。
「お主、もしかして姓は劉ではないか」
「あったり! 珍しい名前じゃないから、当てられても驚かないよ」
「そうではなくてだな、お主、わしの墓を見つけに来るぐらいなんじゃから、わしが生きていた時代のことは知っているのだろう? 劉と聞いて何か思いつかんのか」
「全然」
「即答か」
「だって、さっきも言ったけど劉ってたくさんいるじゃん。俺、親戚の名前すら全員覚えてられないもん」
「薄情な奴じゃの。だが、そのてきとーなところ。わしの知り合いに一人居たぞ。絶対にお主、そやつの血を引いてる、間違いない」
「ふ~ん。じゃあ俺と曹さんがここで会えたのは運命?」
「そういうアホなことを平気で言うところとか、そっくりじゃの。お主、いま何をやっておる。勉強は好きか」
「今? トレジャーハンター中。普段はあんまり流行らない自然志向のわらで編んだ筵とか、草履とか作ってる。勉強は嫌い」
なぜか曹さんは深く深く頷いたのだった。
******************
そんな話(笑)。
要するに劉操な話。
[0回]
PR